お姉ちゃんはよくネタを出すために眠って夢を見ていた。
 夢の中で面白いネタを思いつくんだって。
 
『ねえ、Aちゃん、人にフラれるってどんな気分だと思う?』

 私がいま見た夢で覚えているのは、お姉ちゃんが言った、この言葉だけ。

「ここは寝るところではないので、起きてください」

 ふわりとした脳に聞こえてくる女性のちょっと怒ったような声。
 あー、私、いま……。

「もう少ししたら俺が起こすので、そっとしておいてあげてくれませんか?」

 図書館のテーブルに伏せて、何も見えない視界の中で颯馬くんの声が聞こえた。

 いつの間にか眠ってしまっていた私を庇ってくれたみたいだ。
 図書館スタッフらしい女性の気配が離れていく。

 私も寝ようと思って寝たわけではなかった。
 そろそろテスト期間だし、勉強するのと小説を書くのを両立しようとすると、睡眠を削らなくてはならない。
 どうしても、この時間になると一度眠くなってしまうのだ。

「ん……」

 庇ってもらったのを分かっていて、すぐに起きるのもなんだか恥ずかしくて、私は少し顔が横を向くように動いた。まだ起きてません、を装いながら。

 髪の毛が邪魔をして、隣に座った颯馬くんからは顔が見えないと思うけど。

 そう思ったのに、彼は私の顔にかかった髪を優しく手で梳いて、耳にかけた。

 それで、何も言わないで私のことを見ているのが分かる。

 じっと私の顔を見て、何を考えているんだろう。