「私だよ、Aちゃん」

 振り向いた先にいたのはお姉ちゃんではなかった。「私だよ、Aちゃん」その言葉を口にしたのは、お姉ちゃんと同じ中学校の制服を着た男子生徒だった。

 会話をするのが躊躇われるくらい顔は整ってるけど、茶色の髪に、耳にピアスまでしていて、チャラい。
 背も大きくてお姉ちゃんとは似ても似つかない。

「嘘……、だって、お姉ちゃんは死んだんだよ?」

 私がやっと絞り出した声は否定的なもの。
 幽霊でも会いたいって望んだのは自分のはずなのに、信じられなかった。
 どんな形でも会いたかったはずなのにあり得ないと思ってしまった。

「去年のさ、夏の花火大会、Aちゃん風邪引いて行けなかったよね。暑い夏にも風邪引くんだって私が笑って、Aちゃん熱でヘロヘロのままですっごく怒ってたっけ」

 目の前に立った男の子が、そんなことを良いながらクスッと笑う。
 私は思わず両目を見開いた。

 お姉ちゃんだ……!
 だって、そのことは誰にも話してない。
 私の両親とお姉ちゃんしか知らないことだ。

「お姉ちゃん……!」

 嬉しさと悲しさと混乱と、いろんな感情を抱えながら私は男の子に正面から抱きついた。
 実体がある。ちゃんと触れる。
 まさか、お姉ちゃんが見知らぬ男の子の姿で戻ってくるとは思わなかった。

「どうして、川に飛び込んだりしたの……っ?」

 勢いでそう聞いてしまったことを私は後悔した。
 本当はお姉ちゃんの自殺した理由を聞く準備なんて全然出来てない。
 聞くのが怖い。知りたくない。知りたいけど、いまは知りたくない。