「お母さん、今日、用事があってAちゃんの学校の近くに行ったんだけど、Aちゃん、帰りに男の子と歩いてなかった?」

 どきりとする。大丈夫だよね、お姉ちゃんだとはバレてないよね。
 きっと、ただ歩いている横顔とか背中を見られただけ。

「付き合ってるの?」

 急に聞かれて、答えられなくて、どんどんお母さんの質問が増えていく。

「なんかやんちゃしてそうな感じだったけど、大丈夫?」

 どんどん増えて、心配させて……。
 颯馬くんの見た目って、やっぱりチャラそうに見えるんだね。

「大丈夫、ただの友達だよ」

 ニコッと笑うことも出来ずに答える。
 こういうときの返答の仕方、ちゃんと考えておけばよかった。

「そう、あんまり心配させないでね」

 お母さんはそう言って、またコンロの火を点けた。

「うん」

 頷いたけど、本当は「心配ってなに?」って言いそうになった。
 いままで、そんな心配とかされたことなかったから。
 きっと私たち双子は大丈夫だと思われてたから。

「……」

 言葉を呑み込んで、私は自分の部屋にまた逃げ込んだ。

『私のだから、私の机の上に置いておいて』

 今日、お姉ちゃんに言われたことを思い出して、借りていた本をスクールバッグから取り出す。

 ――お姉ちゃん……。

 机に置こうとして、お姉ちゃんの顔を思い出して、本をぎゅっと胸に抱いた。
 ずっと、きっと、この部屋にあったはずなのに、この本はお姉ちゃんとは違う香りがする。
 ……颯馬くんの匂いだ。