「感情とか、そういうのはよく分からなかった。胸がぎゅっとなる感じはあったし、書き方はなんとなく分かったけど」

 好きについて、本を読んだところで、その感情を知ることは出来なかった。
 書き方の勉強にはとてもなったと思うけど。
 本だけでは学べないこともあるのだと、知った。

「でも、書き方は分かったんだ? すごいじゃん」

 横から伸びてきた大きな手が私の頭をポンポンと撫でる。

今日の颯馬くんはなんだか変だ。積極的すぎる。

「ほ、本、返すね」
「待って」

 道端でごぞごそとスクールバッグを探ろうとして、颯馬くんに止められた。

「私のだから、私の机の上に置いておいて」
「そっか……、分かった」

 私は大人しくスクールバッグを閉じた。
 こうやって時折、「私」と言われて、そうだ、お姉ちゃんだったんだ、って思い出す。

「ねえ、お父さんとかお母さんには会えないの?」

 聞いちゃいけないって分かってるのに、どうしても我に返るときがある。
 お父さんとお母さんは私と一緒で全然お姉ちゃんの突然の死から立ち直れていない。
 深夜にリビングで泣いてたり、家族仲がギクシャクしたり。