外に出てみると、私の気持ちと違って、空はなんの悩みもないみたいに晴れ渡っていた。
 しばらくは一緒に泣いてくれる気はないみたい。
 
 少し身体が震える。腕を抓って、足を前に出す。
 呼吸の乱れと背中を流れる変な汗。
 自分を誤魔化すためにわざと早歩きで歩いた。

 お姉ちゃんが見つかった場所は警察の人が言っていた。
 川にかかった二本の橋の下すぐ、こちら側の岸。
 びしょ濡れの状態で一人で倒れてたって。

 もう誰も花を置いていなくて、お姉ちゃんがいた証はない。
 家族以外、この場所を知ることはない。

「……お姉ちゃん、来たよ」

 小さな声で、かすれた久しぶりに出した声で、お姉ちゃんに語りかける。
 きっと、もうここにはいないのに。

 そっと置いた白い花の花びらが風でそよそよと揺れる。

「お姉ちゃん、会いたいよ……」

 そう嘆いても、お姉ちゃんは私の前に現れなかった。
 たとえ幽霊でもよかったのに、気配すらない。

「また、来るね……」

 どうしてかいまさらになって泣きたくなかったから、涙をぐっとこらえて、橋への階段へと向かう。
 上がりきって、向こう側まで橋の上を歩いていく。
 橋の終わりはスロープになっていて、そこを下れば……

「Aちゃん?」

 後ろから聞こえてきたのは男子の声、でも私は「お姉ちゃん?」と振り向いてしまった。

 だって、私のことをAちゃんと呼ぶのは家族だけ、この名前を考えたのはお姉ちゃんだから。