◆ ◆ ◆

「よかったね、妹さんのほう学校に行けるようになって」
「今日なんか、お友達と出かけてるんでしょう?」
「やっぱり、子供は立ち直りが早いね」
「そうなの、ほっとしてるの。親の私たちのほうが、まだ全然気持ちがついていけてなくて」
「そりゃ、そうよ。大事な娘を突然失ったんだから」

 家に帰るとリビングから、お母さんとお母さんを慰めにきたお友達四人の声が聞こえてきた。お母さんにはお友達が多くて、私はあの騒がしくなる空間がなんとなく苦手だった。

「Aちゃん」

 自分の部屋に行くには、どうしてもリビングの前を通らなくちゃならなくて、私の帰還はみんなに知られた。
 一番最初にお母さんが私を見た。

「ただいま」

 すぐに明るくなんて出来なくて、ただ静かにそう言った。
 表情管理とか、そんなの出来ない。

「あ、おかえりなさい」

 お母さんのお友達が口々に言う。

 気まずい空気。
 どうしたらいいか分からない顔。
 すべてが嫌い。

 ペコッと軽く頭を下げて、私は階段を上がり、自分の部屋に逃げた。
 まだ痕跡が残ってるのに、お姉ちゃんの居ない、私たちの部屋。

「そんなことない」

 扉の前に座り込んで小さくつぶやく。

「全然立ち直ってなんかない……っ」

 涙があふれて止まらない。
 本当は自分の気持ちを必死に繋ぎ止めてるの。
 いま会ってるお姉ちゃんだって、いつ消えてしまうか分からない。
 消えるときに一緒に消えられればいいのに。

 怖い。
 怖い。
 怖いよ……。