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「今日のデートで何か分かったことはあった? 感じたこととか」

 帰りの電車内、自然とそんな話になる。
 だって、私たちが付き合ってるのは、これが目的だもんね。

「ごめん、よく分からなかった」

 申し訳ない気持ちで答える。

 どきっとしたりするところとかあったけど、恋愛感情とか、そういうのは分からなかった。
 変わらず分かったことは、お姉ちゃんが周りの女の子からモテることくらい。

「そっか、まあ、そうだよね。……姉妹だし」

 小さな声でお姉ちゃんはそう言った。
 そろりと繋いでいた手が解かれる。

 どうやらお姉ちゃんは一駅前で降りるようだ。
 もうすぐ駅に電車が到着する。

「家まで送ってあげられなくてごめん」
「ううん、お姉ちゃんが消えちゃうのは嫌だから」

 虚しそうな表情を向けられて、こっちの胸がぎゅっとなる。
 制約があるなら仕方ない。
それに今は『男ならデートのあと、必ず女の子を安全に家まで送り届けること!』なんて時代でもないし、外はまだ明るいから大丈夫。

「あのさ、今度からお姉ちゃんじゃなくて、小説に出てくる男子の名前で俺のこと呼んでみたら?」

 お姉ちゃんは私がずっとお姉ちゃんと呼ぶことを気になっていたのかもしれない。
 向こうはもう覚悟を決めて「俺」と言っているのだから、それもそうかと思った。
 私も覚悟を決めて、割り切らなきゃ。
 いまのお姉ちゃんは完全に別人なのだと。

「えっと、主人公の相手の男の子……颯馬くん、だっけ?」

 たしか、と思い出して、名前を口にする。

「そう。颯馬。俺は今日から颯馬」

 はっきりとそう聞こえた瞬間、ちょうど電車が止まった。

 なんで、そんなに儚い表情をするんだろう?
 寂しそうな笑み。
 お姉ちゃんが少しずつ消えていくのが怖い、のかな。

「じゃあね、Aちゃん、次は月曜日の放課後、いつもの図書館の前で」

 電車から降りて、私のほうを見て、彼が言う。

「またね、颯馬くん」

 扉が閉まる瞬間、そう口にした私の言葉は颯馬くんに届いただろうか。