「それと、もう私って言うのやめるね。集中出来ないと思うから、今度から俺って言う」

 決心したような顔で言ってるところ悪いんだけど、お姉ちゃん、ちょっとした問題忘れてない?

「お姉ちゃんさ、お金とかどうするの?」

 まさか私にたかるつもり? と思ったら、案外あっさり「そこは大丈夫」と答えられた。

「じゃあ、今度の土曜、朝の十時にここの近くの最寄り駅、集合で」

 相手はやる気満々だ。
 なんなら、もう、一人で立ち上がって帰ろうとしている。

「へ? ちょっ」

 慌てて私も片付けるけど、全然待ってくれなくて、忘れ物がないか確認したあとに振り向いたら、お姉ちゃんの姿はすでになかった。

 完全に置いていかれた……、と思いながらトボトボ図書館から出る。
 でも

「ふぇ?」

 急に横から手を引っ張られて、とんっと何かに正面からぶつかった。

「俺、待ってるから」

 耳元でささやかれて、ドキリとした。
 誰なのか、分かってるのに。
 分かってるはずなのに……。

 この日から、お姉ちゃんは完璧なイケメン男子になった。