夢で過去のことを見ていた気がする。
 目が覚めた瞬間に夢の内容は忘れてしまって、感覚だけが残っていた。

「ん……」

 二段ベッドの下の段で伸びをして、やっと目が冴えてくる。
 もう学校のみんなは登校を開始している時間だろう。

 一人の部屋はやけに静かで、なんとなく居心地が悪い。

 この部屋には二つ机があって、こっちの机で私が勉強して、あっちの机でお姉ちゃんが小説を書いて……。

 そう、私の双子のお姉ちゃんは小説を書くのが得意だった。
 小学四年生までは私も書いてたけど、お姉ちゃんには勝てないと分かって私は書くのをやめた。
 私はお姉ちゃんみたいに学校での賞とかも獲れないから。

 その代わりに勉強を頑張って、私はお姉ちゃんとは違う中学校に入学した。
 
 お父さんもお母さんも別にそんなに頑張らなくていいんだよ、って言ってくれたけど、私にはお姉ちゃんみたいに何か特別、秀でた部分はないから他で頑張らないといけない。
 
 私とお姉ちゃんは双子なのに、生まれた時間も三十分くらいしか変わらないのに、私よりお姉ちゃんのほうが優れてた。私より明るくて可愛くてうらやましかった。

 でも、お姉ちゃんのこと嫌いじゃなかった。大好きだった。

 なのに、お姉ちゃんは一ヶ月ほど前に家の近くの川で死んだ。
 警察は事件性がないから自殺だと言った。
 その日の朝までいつものお姉ちゃんだったのに、何を悩んでいたんだろう。

 四十九日も過ぎて、もう納骨も済んだ。
 お姉ちゃんが居た証はこの部屋と、私の中にある思い出だけ。

 会いたいよ、お姉ちゃん。
 幽霊でも会いたい。

 あの日から、私は自分の半分を失ってしまったみたいに胸がぎゅっと苦しくて、ずっと外に出られなかった。
 でも、お姉ちゃんに会いたい気持ちが私を動かした。

 玄関の花瓶に刺さっていた名前も知らない白い大きな花を一輪手に取って、私は玄関の扉を開ける。外に出るのは何日ぶりだろう。私はちゃんと生きた顔をしてるかな。