「でもさ、男性の読者はなんか勝手に好きになられてたハーレムが許せるけど、女性の読者は好きになる、なられる理由をちゃんと書かないと受け入れてくれないんだって」

 お姉ちゃんに説明されて、これが男の脳と女の脳の違いか、と思う。
 そっと離れていく手を目で追ってしまった。

「めんどうくさいね」
「そう、めんどうくさいんだって」

 私がぼそりとこぼすと、お姉ちゃんは苦笑いを浮かべた。
 そこまで分かってるなら本当に自分で書いてほしい。
 でも、理由があるなら仕方ないか。

「とりあえず、これ」
「なにこれ?」

 私が頭の中で文句を言っていると、ふいにお姉ちゃんが一冊の本を差し出してきた。
 反射的に受け取るけど、文庫サイズのそれは結構ページ数がありそうだ。

「文章力上げるための資料、かな」

 お姉ちゃんは曖昧な言い方をする。

「君だけが許してくれた僕」

 へえ、と思いながら私は表紙を見て、タイトルを口に出して読んだ。

「読んだことある?」
「ううん、ない」

 聞かれたけど、少なくとも私の記憶の中にこの本のタイトルはない。

「じゃあ、読んで」

 ニコッと笑って有無を言わせない感じ、鬼教官みたいだ。
 そうだ、忘れてた。お姉ちゃんはイタズラっ子であり意地悪なところがあったんだった。

「読んだら、好きってどういうことか分かるのかな。というか、お姉ちゃん好きな人いたことある?」

 こっちもちょっとやり返す勢いで質問してみる。
 ずっと一緒にいたけど、私たち、恋愛の話はこれっぽっちもしたことないんだよね。
 お互いに地味子だし、まさか、恋人なんているわけ……