~数ヶ月後~

「アイドルって……」

 出会った瞬間に口から言葉が漏れる。
 呆れというより、驚きというより、嘘でしょう? みたいな。

「やるつもりなかったんだけど、やってみたら案外楽しくて、いずれ役者にも挑戦できるかもしれないし」

 いま、私の前には一般人に変装している、らしき、中川くんが座っている。
 場所は近所の喫茶店。
 キャップとマスクをして変装してても、そのイケメンさとオーラは隠し切れていない。

 うぅ……、顔がいい……。キラキラしてる……。

「たしかに、最近のアイドルは役者としてドラマ出てる人も多いもんね」

 街で有名芸能事務所にスカウトされてから、中川くんは某アイドルグループのリーダーをしている。
 気が付いたときには、努力とか、カリスマ性とか、オーラとか、運とか、すべてが味方して、変装しないと外を歩けないくらい、中川くんは有名になっていた。
 仕事が忙しいらしく、私と彼は本当に久々に顔を合わせたところだ。

「そう、可能性はゼロじゃないから」

 中川くんが楽しいなら、まあ、いいかなとも思う。演技も上手だし。それは私が一番知ってるし。

 でも、私、アイドルと友達ってことだよね。ん? 私たちって友達なのかな?

「ねえ、中川くん、私たちって友達?」

 気になって思わず尋ねてしまう。
 いままで聞いたことはなかった。

 こんな地味な私と中川くんが友達を続ける理由ってなくない?
 もう約束も何もしてないし。

「Aちゃんはどうしたい?」

 彼は未だに私をAちゃんと呼ぶ。
 呼ばれて苦しくはないけど、なんだか落ち着かない。

「私に聞くのずるくない?」

 むくれてしまう。
 だって、私は一回中川くんを好きになって、フラれてるんだから。
 この残った気持ちが許されるはずがない。
 そう思ってたけど、お姉ちゃんはきっと、そんなこと気にしないんだろうな。

「Aちゃんは本当の俺のこと、まだ全然知らないと思うんだよね」

 自信満々な様子で意地悪く言う中川くん。
 誰に似たんだか、とか思ってもいいかな。

「ちゃんと教えてくれるんですか? 天下のアイドル様が」

 きっと、私、いまイタズラっ子な笑みを浮かべてる。
 ほんと、誰に似たんだろうね。

「いいですよ? デートしますか?」
「じゃあ、お友達からよろしくお願いします、颯馬くん」

 なぜか、二人で敬語になりながら、私たちは握手を交わした。