「それも見せてくれんの?」

 チラッと視線を横に向けるとこちらを見ている中川くんと目が合った。
 視線が「それ」と言っている。

「え、あ……うん」

 どうしようか、と一度悩んで、私は中川くんに自分の手紙を手渡した。
 これは過去の私の気持ちだから。
 いまの私の気持ちじゃないから見られたって、別に……。

「本当に二人で作家を目指してたんだな」
「うん」

 手紙を読み終えた中川くんがまた私を真っ直ぐに見た。

「小説書くの嫌いになんてなってないよな?」
「……」

 尋ねられて黙ってしまう。

「諦めるのか?」

 一歩、真剣な瞳にぐいっと距離を詰められる。
 でも、答えなんて分かってるでしょ?

「だって、私はもう書けない」

 きっと、書けないんだ。自信もなくて、才能もない。お姉ちゃんもいない。もう物書きとしての私なんて……。

 缶を持った手に力をこめる。

「なあ、Aちゃん。缶の底、もう一枚残ってるけど」

 そう言われて、視線を缶に戻すとたしかにそこには真っ白な紙が一枚残っていた。
 缶の上で手紙を読んでいたから気が付かなかった。

 折り畳まれていないから、きっと裏返せば文字が見える。 
 でも、何が書いてあるのか、見るのが怖い。

「俺が先に読もうか?」

 緊張から動けなくなった私を見て、中川くんはそう言ってくれた。

「うん」

 恐る恐る、缶ごと彼に差し出す。
 何か悪いことが書いてあれば、読まずに封印しようと思った。
 でも、そんな考えもすぐにどこかにいく。