彼からのメッセを避けながらスマホを見ていたら、見知った名前の通知が届いた。



「……ん? あ、教授だ。…電話?」


Discordの通知を見ると、アル教授と表示されていた。
教授は知り合いのVTuberで、あの人と共通の友人でよく絡んでいた1人だ。
何度かサムネのお手伝いをした事もある。
別れる際の連絡をしていた人でもあるので、心配かけたかもしれないね。
通話が出来る休憩スペースに行って、こちらから発信すると数回のコール音が鳴った後につながった。


「あ、教授?」

『やぁ、レヴィ…じゃないわね。病院だから、(ゆう)の方が良いかしら?」


電話越しでもわかる艶やかなバリトンボイスが、耳を擽る。
高すぎず、低すぎず。それでいて聞きやすいので彼の声は好きなのよね。


「どうも~。あ、病院なんで本名でお願い」

『了解。心配したのよ。入院したって聞いたけれど、今は大丈夫なの?』

「胃と食道がヤられまして、吐血したんで入院になったの。不摂生とストレスが主な原因らしいよー」

『不摂生とストレス?』


SNSには胃と食道が瀕死になったんで、入院したとしか書いていないのよ。
(じん)に知られたくないからだけどね。
原因までは知らなかった教授の声が低くなった。
あ。これはまずったのではなかろうか。
教授は相談していたし、何かと私を気にかけてくれてたから…。


「あの人が私を放置して、諸々悩みに悩んだ結果が分かれた宣言なの。加えて本業の方が繁忙期に入ってたんで、そのストレスもあったのかと。精神的なモノから来る食欲不振が続いてて、私から別れると送ったのがトドメになったみたい」

『あ~……。あのバカ。ホント、人の忠告効かないんだから』


電話越しに聞こえる心地良いバリトンボイスに、苛立ちの色が混じる。
アル教授…アルルカン・ダルクは教授という肩書を持つ口調がオネェな男性VTuberさんだ。
教授という設定で配信している中の人は、雑学が好きな元社会人さんらしい。
キャラ付けでオネェ口調にしているけれど、恋愛対象は女性な見た目も中身もイケメンさんだ。
オネェは口調だけというのは、リスナーも含め周知されているね。
口調がこんな感じでも、全然わざとらしさがないのが凄いなと思う。