目を覚ますと、記憶にない場所で軽くパニックになる。
が、相変わらず体がしんどいので起き上がれない。
逆にそれが冷静になるきっかけになったんで、目が覚める前の事を思い出してみる。
何が起きたっけ?
周囲を見回せば、カーテンで区切られた空間。
会社の医務室はこんなんじゃなかったから、多分ここは…。


「……病院?」

「あ、榊さん。目が覚めたのね」

「え? あ。部長?」


声が聞こえた方に目をやれば。
直属上司の南野(みなみの)部長がいらっしゃった。確か、彼女の目の前でやらかさなかったか? 私。
記憶が途切れる前、彼女の声がしたし。


「えっと…」

「会社に来た途端、吐血して倒れたのよ。胃潰瘍一歩手前ですって。おまけに食道も荒れていたみたいよ」

「あー……すみません」

「胃も食道も完全に貫通はしていないけど、出血する程度には傷ついているの。投薬で治療って言われていたわ。それでも吐血する程出血していたから1~2週間入院はするみたいね」

「マジですか」


穴が完全に開いていないとは言え、胃と食道が結構荒れているようで様子見の為入院が必要だと言われたわ。
数日間絶食して点滴治療から徐々に流動食~固形物へと切り替えるらしい。


「忙しい時期も過ぎたから、しっかり体を休めなさい。あまり食べられてなかったんでしょう? やつれ具合も酷いし、結構強いストレスも受けてるんじゃないかって」

「あ~…まぁ。仕事は大丈夫なんですけど、ちょっとプライベートで問題がありまして…」

「そっか…。その件、話せる人はいるの?」

「一応は」


共通の友人はいるので、その人を頼れば…かな。
しかし、入院か。
最長2週間入院して、自宅療養に1週間? え、大丈夫かな。私。


「この際、貯まった有給消化しなさいな。私の方で、入院や会社で必要な手続しておくわ」

「あ、お手数おかけします…」

「こうなるまで気づいてあげられなくて、ごめんなさいね。上司としてあるまじきだわ……」


きれいに整えられた眉を八の字にして、頭を下げる部長。そんな彼女に焦って、顔を上げてもらう。


「あ、いえ。部長のせいではないですから、気に病まないでください。こちらこそ、すみません。良い機会なので、体休めます…」

「ご家族の方にも、一応は連絡入れるわね。規則だから」

「ですよねー…」


両親は高齢なので、きっと姉が来るだろうな。
先生が病室にきて、改めて症状の説明がなされた。
割と酷目の荒れで、吐血した事もあり入院確定となったそうな。
入院期間は最長2週間。経過が良ければ早まる事もあるらしい。