きゃあきゃあ言われている麻倉くんの様子を思い浮かべて、ほほえましく思ってしまった。
騒がしいのがニガテだと言っていた麻倉くんは、あまり嬉しそうではないところまで出てくる。


「まぁ…ね。当時から、歓迎していない事態ではあったよ。そう言うわけで、これは僕の初恋になるんだ。初恋が実って嬉しいよ」

「えッ? 私が初恋相手なの?」

「そう。likeはあったかもしれないけれど、loveの方は初めて。だから自分でも本気で女性を好きになったらこうなるのかって、驚いてるんだ」

「こうなるって?」


穏やかに笑いながら、意味深な言い方をする麻倉くん。
なんというかその微笑みも、たいがい甘い気がするんだけど。


「悠の事をね。物凄く甘やかしたいなって。ずっとそばにいて、触れていたい。僕なしではいられないくらいに、僕に溺れさせたいなって…いつも、考えるんだよ」

「……あぅ…」


物凄く。
私の事が愛おしくて堪らないって顔をなさって、破壊力抜群のセリフを魅惑ボイスでおっしゃったこの方をどうしてくれようか。
直視できませんが! 仁と全く違ってて、こんな糖度高めの経験した事がないので受けと方がわかりませぬ!
きっと茹蛸のように赤面してるんだろうな。
顔があっついです。


「ふふ。照れてる悠も、可愛いね」

「うぅ…。気恥ずかしすぎて、あっつい。キャパオーバーするって」

「でも、慣れてほしいかな。あまり嫌がる事はしたくないけど、僕としては悠にたくさん触れたり甘やかしたいんだ」

「普段のクールキャラとのギャップよ…」

「まぁ、これも僕だから。幻滅した?」


少し不安そうに聞いてくる麻倉くんも、破壊力高いわぁ。
もう、何しても私はこの人にかなう事はないんだろうなぁ。だいぶメロメロになっていると思う。
よくあるハート付きの特大の矢が、胸に刺さったような感じがするもの。
たぶん、だいたいの事は許してしまいそうだわ。


「しないよ。ただただ、この糖度に慣れてないだけ」

「ふぅん? 仁科は悠を甘やかさなかったの?」

「仁はここまで糖度は高くなかったよ。あっさり系…っていうのかな? 彼なりに大切にされていたとは思う」

「そうなんだ。じゃあ、あいつ以上に悠を大切にしなきゃね」


思い返せば、仁は割とあっさり目だったんだよね。
大切にされていたとは思うけど、べったりではなかったと思う。
寧ろ付き合いだした頃の私の方が、くっついていた気がする。
彼の性格上、糖度高めの甘々には出来なかったんじゃないかな。
そういった系統に、気恥ずかしさがあるって言ってたと思う。


「ありがとう。私も、同じ熱量を返せるかわからないけれど…麻倉くんの事、大切にしたいよ」

「うん。同じくらい…は、難しいからね。大切に思いあっているのがわかれば、良いと思う。でも、一つ我儘を言うなら…名前で呼んでほしいな」

「え? 名前?」

「そう。仁科の事は、名前で呼び捨てでしょう? なのに、僕はそのままなのは嫌なんだ。ダメ?」


若干寂しそうに微笑む麻倉くんに、再度胸を撃たれる。
あれ?
私がその表情に弱いの、バレてないかな。
今、自分で自覚したばかりの事なんだけども?
麻倉くんはわかってて、その顔をしてるのかな?


「ぅ…ダメ、じゃない。けど、今までずっと『麻倉くん』だったから…つい。これも、慣れるまで待ってね? 遥翔(はると)」


正直、『くん』もつけたかったけど。
仁の事を上げていた時に、呼び捨ての事も言っていたから。これが正しいと思われる。
その証拠に、彼の顔がとても満足そうだったから。
お酒の力も借りつつだったけれど、無事告白のお返事は成功したと思う。
この日は、明日も仕事があるからと。
そう遅くならないうちに解散となりました。