待ち合わせ場所を見ると、イケメンがそこにいた。
遠巻きに見つめる女性多数。
あんな中で彼に声をかける勇気が私にはないのだが。
でも、行かないとなぁ…と、半ば諦めて麻倉くんのもとへ向かう。
そういえば、待ち合わせの時間まで10分前ですが。何故にもういらっしゃるのでしょうかね?


「早い到着だね? 麻倉くん」

「やぁ、悠もお早い到着で。僕もさっき来たばかりだからお相子かな」

「そうかな。じゃあ行こうか。お店とか特に決めてないけれど、麻倉くんはどこか行きたいところある?」

「うーん…とくには思いつかないかな。悠は?」


聞かれてちょっと考える。
そろそろスモークチップが切れそうだけれど、それは今回買わなくても良いかな。
服も…今のサイズで買うわけにもいかないし…うーん。


「とりあえず、靴とか雑貨見たいかな」

「了解。じゃあ、行こうか。お勧めのお店があるんだ」

「ん。楽しみにしてるね」


お勧めされたお店は、お勧めして貰った通り好みの雑貨が揃うお店でございました。
お香と重石にも使えそうなパワーストーンをチョイス。


「悠はエキゾチック的なのも好きなの?」

「割と。コーディネートが難しいから、服の冒険はしないけれど。こういったお香も石も好きな方だね。麻倉くんは?」

「僕もだね。よく使うお香もここで買ってるんだ」


そういう彼の手には、彼のお気に入りであろうお香があった。
そっと確認してみれば、以前彼のジャケットから香ったアンバーとは違うけれど似た感じのモノだった。
麻倉くんのイメージに合う香りで、自然と顔がほころんだ。


「良い香りだねぇ。うん、私も好きだな。この香り」

「でしょ。いつもつけている香水とはまた違うんだけど、似た香りだから気に入ってるんだ。悠も好きみたいで良かったよ」


ふわりと笑った顔に、思った以上に心臓がはねた。
……イケメンの柔らかい笑顔の破壊力よ。
うん。次のアル教授のイラスト、この笑顔モチーフに書こうかな。
照れ隠し目的で、思考を明後日の方に持っていこうとするも、結局はイラストの描き起こしなので見事に自滅。
顔が熱いので、きっと赤くなってると思う。
体ごとグリンと反転させて顔をそむけてしまった。


「ん? どうしたの? 悠」

「な、何でもない! 会計してくる」

「待って。お祝いなんだから、今日の支払いは僕が持つよ。だから、手にしてるのを渡してくれる?」


恥ずかしくて、ひとまず彼から離れようとしたら思いもよらない事を言われて硬直する。
脳内処理が追い付かないまま、手にしている商品を手にした麻倉くんはスマートに会計を済ませた。
プレゼント用にラッピングされたそれを手に、「じゃあ行こうか」とこれまたスマートにエスコートしてくれた。
まだ追いつかない私は、促されるままに店を出る。


「はい、これ」

「あ…ありがとう?」

「何で疑問形?」


くすくすと笑いながら突っ込みを入れる麻倉くん。
それもまた様になってて、見惚れてしまう。
無視できない感情が騒ぎ出さないように、さっと視線を渡された荷物へと向ける。


「まさか、買ってくれるとは思わなかったから」

「ふふ。さっきも言ったけれど、今日はお祝いのつもりなんだ。だから、今日は悠から出させないつもりだよ。遠慮なんてしないでよ?」

「いや、そこまでしてもらうのはちょっと…」

「良いんだよ。僕がそうしたいんだから、今日は甘えてよ。僕のためにもさ」


麻倉くんの為って…どういう意味なの?
とは、聞けなかった。
返答が、怖かったのかもしれない。


「麻倉くんが良いのなら…あまりよくはないけど、お願いします。それから、ありがとう…コレ」

「どういたしまして。つぎ、どうしようっか?」

「そうだねぇ…」


そういえば読んでいる本の新刊が出ているころだなと思い出す。
ちょっと覗いてみようかな。


「本屋に行きたいかな。そろそろ呼んでる本の新刊出てるころだから、確認したくて」

「了解。じゃあ、行こうか」


ショッピング中。
改めて麻倉くんの良さに気づいていく。
自然体で紳士はずるいと思う。
さりげないエスコートが、とてもサマになっているのよ。まるで、王子のようだわ。
……王子キャラのアル教授も、ありかもしれないわね。
今度ファンアートだそうかしら。