『初手を間違えたままだから、これまで築いていた信頼関係に亀裂入るのは当然の事。ましてや不安材料があるのに、何のフォローもないまま長期間放置されてみろ。彼女の自尊心や信頼関係がボロボロになるの、わからないか?』

『最悪既読無視した数日後に、別れを切り出されてもおかしくなかったんだぞ』


「…そう言われて、初めて現状に気づけたんだ。あ、俺、最低な事してるって」

「そうだね。最終的には胃と食道が瀕死になって入院したね、私」

「ホント、ゴメン」

「相良さんが言った通りよ。もう、修復不可な所まで行ってるの。疲れたの。パームさんとの関係がどうだったかなんて、もうどうでも良いのよ」


パームさんとの事も気になるけれども、今となってはもうどうでも良いのよね。
彼女のDMにも、返信していないしね。


「…わかってる。俺も、冷静になって考えれば、わかるよ。同じ事されたら、俺も別れると言ってるだろうし」

「わかってくれてありがとう」

「別れは受け入れるよ。今日は、鍵を返すのとちゃんと謝りたくて来たからさ」


そう言って、仁はキーケースから私の家の鍵を外して渡してきた。
それを受け取って、カバンにしまい込む。


「俺の荷物は…着払いでも良いから送ってくれないか? お気に入りもあるし、さ」

「良いよ。近日中に送るわ…じゃあ、私のもお願い」

「了解。……なぁ。別れてもさ、イラストの依頼しても良いか? 俺、悠のイラスト好きだから」

「もちろん。恋人としての付き合いは終わるけれど、友人になるのは構わないわ。例え、パームさんと付き合おうともね」


そう言えば。
仁はピクリと肩を揺らして苦笑した。


「あ…そうだな。多分、付き合う…かもしれない。心境的にまだ決めかねている所だけど」

「ん~…。余計なお世話かもしれないけれどね。個人的には、あまりお勧めできないかな…パームさん」

「え?」

「これ。彼女からDM来てたのよ。相手にしてなかったけれどさ」


そう言って、彼女から届いてるDMの一部を見せる。
あの、謝っているようでしっかりマウントとっているヤツとか。
読み終えた人の顔を見ると、見事に引きつっていたわ。
イメージと違ったのかしら。


「アル教授からも、仁科狙いなのを聞いていたのよね。初コラボ終わったあたりからじゃない? 彼女との接点増えたの」

「確かに…。妙に俺のツボ抑えてて、楽しかったけど…」

「どっちも彼女の顔じゃないのかな。付き合うとしても、私みたいに気楽じゃなくなるかもね。結構、重たそう」

「重たそう?」

「そう。付き合う前からこんだけマウント取ってくるから、束縛系かな。他の女の子と一緒にいるだけで癇癪起こすんじゃないかなぁ。相当嫉妬深い人だと思うよ」


うん。多分だけど、嫉妬深い人だと思う。
割とパーソナルスペース広い仁だと、重荷になるんじゃないかな。
仁は結構人懐っこい人だから、人との距離が近いんだよね。
私は別に気にしないけれど、彼女の場合はどうだろうか。