金曜日、当日。
待ち合わせ場所に、少し前について仁を待つ。
彼の言い分を聞いたうえで、きちんと終わらせるつもりだ。
彼が納得しようがしまいが、もう無理だという事を伝えて。

15時10分前。待ち合わせ時間よりも早く、仁がお店にきた。
見る限り1人できたみたいだね。
これで問答無用で終了はなくなったので、私としてもほっとしたところ。
自分で決めていたとはいえ、そうなったら後味が悪すぎるからね。

私を見つけた仁は僅かに目を見開いて、それからすぐにこちらへと来た。
表情はこれからの事もあってか、硬いままだ。


「悪い。待たせたか?」

「ううん。呼び出したの私だから、大丈夫」


注文を済ませて、その到着を待つ。
途中で持ってこられても、気まずいからね。
程なくして、注文した飲み物が届いた。


「……あの、さ。まずは、長い間連絡しなくてゴメン」


気まずそうに、仁は連絡をよこさなかった理由をぽつりぽつりと話し出した。


「あの頃、ちょうど配信の事でバタバタしてて…LINE来てたのわかってたけど、後回しにしてしまったんだ。それから実家の用事とかも重なって、忘れてしまったんだよ」

「実家の用事って?」

「親父のぎっくり腰。母さんだけだと介助が難しいモノがあるから、都度呼び出されてたんだよ」

「あー…お風呂とか?」

「そう。これが意外と大変で、終わる頃にはくったくたになって…で、また忘れて…が最初の頃の理由」


成程。それは大変だったと思う。
お風呂とかの介助って、大変だとよく聞くものね。
後回しにしたけど疲れて忘れた…のは、わからなくはない。


「お父さんはもう大丈夫なの?」

「良くはなったけど、再発には気を付けてもらってる。もう良い年だから」

「そっか。きっかけは分かったけど…それならそれで一言でもメッセ送ってくれたら良かったよね?」

「そうだな。ゴメン…」


確か、ご両親も高齢者といわれる年齢になっていらっしゃってたはず。
ウチよりも上じゃなかったっけかな。こういった形でご両親の衰えを実感して、動揺するのは分からないでもないわ。それでも、落ち着いてからでも連絡くらいはしても良いと思うのよ。
それから、例の件もあるわね。


「こちらとしては連絡が返ってこないから心配しているのに、何事もなく動画配信するわ、SNSの更新はこまめにしているわで良い気はしなかったわね」

「ゴメン。そこは悠に甘えていたよ。配信やツイッター見てくれてたらわかってくれるだろうって」

「そりゃ察する事は出来るけどね。連絡って、人付き合いにおける最低限のマナーじゃないの?」

「うん……そうだな。良い大人がする事じゃないな」

「パームさんの事もあったから、余計によ。長期間放置なうえに、匂わせとかあっても何もしなかったじゃない。それで折れたのよ…もう、ムリだって」


そう言い切って、一口コーヒーを飲む。
いつもよりも強めに苦みが感じられるのは、自分の心境の表れだろうか。