歩いて10分したところに、自宅がある。
女性の一人暮らしなので、セキュリティがしっかりしているところにしたのよね。


「殺風景かもしれないけれど、リビングで待ってて。コーヒー淹れるわ」

「お邪魔します。へぇ、シンプルで良いんじゃないかな」

「シンプルな方が落ち着くのよ。女子力低めだけどね」


借りていたジャケットをハンガーにかけて、ケトルのスイッチを入れる。
私はまだ飲めないから、温かい麦茶を用意。
インスタントだけどお気に入りのドリップコーヒーをセットして、沸いたお湯を細くゆっくり注ぎ入れる。
お湯を入れた瞬間から薫るこのコーヒーの香りが好きだったりする。


「おまたせ。じゃあ、サクッとイラストのデザイン決めちゃおうか」

「あ、ありがとう。えっとイラストはー…」


数点ラフ画を描いて、麻倉くんに決めてもらう。
表情の指定も終わったので、これなら数日中に完成するかな。


「そう言えば。仁科との話し合いはするの?」

「うん。今週金曜に、する予定。そこできちんと終わらせようかなって」

「やっぱり別れるの?」

「別れる。いくら忙しくても、一言二言でも良いから状況説明くらいしてほしかった。どう考えても、私はほったらかしにされた事が許せないのよ」


入院中にも考えていた事だけども。
別れる方針になったのは、諦めの気持ちが大きいけれどもどうしても許せない事があったからだ。


「SNSや動画見れば忙しくしてる事くらいはわかるわ。でも、連絡入れないのは『察してチャン』と何ら変わらないじゃない。連絡を入れなくて良い事にはならないわ」


ましてや、他の女の影がちらつく中だから尚の事何かしら連絡が欲しかった。


「彼女なんだから、心配するし不安にもなるわ。だから、安心させて欲しかった。でも、3ヵ月…何もなかったのよ。私から送ったメッセの返信もしないで、ね。だから、その程度の労力も避けないほどどうでもよくなったんだと思ったから。別れるの」

「そっか。仁科は思い違いをしていたんだね」

「どうだろう。結果、こうなっただけだから。もうしないといわれても、私がもう無理なのよね。今でも仁科の事は嫌いではないけれど、信頼関係失うには十分な放置期間だったと思う」


私はそこまで辛抱強いわけではないのだよ。
許せない事だったし、気持ちも折れてしまったから。修復はムリだ。
それを、金曜日。仁に話して、きちんと終わらせるつもりだ。