それならば、新居ができ上がるまで実家暮らしでいればいいものを、私から離れたくない熊男は、私のマンションに住み着いてしまったのだ。
 学生時代と違い1LDKのマンションに住み替えているとはいえ、190cmの謙吾が暮らすにはあまりに狭く、天井が低い。だがそんな悪環境にもかかわらず、頭をぶつけながらも、熊さんは幸せそうに暮らしている。
 それにしても……。
 嵩の高い団体を眺めながら昨日のことを思い出す。

「糸、これとこれ、どっちがいいか?」
 見せられたのは淡いブルーのポロシャツと、白地に鮮やかなグリーンのラインが入ったラガーシャツだった。
「どっちも爽やかに見えるよ。ラガーシャツの方がちょっと若く見えるかな」
 今は爽やかを目指しているらしく、この質問をよくされていたので、特に気にしていなかった。あれは運動会のためだったのか。どうやらラガーシャツが選ばれたようだ。最近少しストーカー気味な熊男のことだ。甥っ子を見に来たというよりは私を見に来たのだろう。
「まあ、謙吾も楽しめるはずだし……」
 聖堂館学園小学校の運動会は、保護者や同窓生が参加出来る種目も用意されている。保護者は子供のビデオを撮り、自分自身もプログラムに参加したりと大忙しなのだ。せっかくなら謙吾も楽しんでくれるといいな。