「こちらこそ、糸は気が強くて嫁のもらい手なんてないと思ってたのよ。この前もお見合いで断られちゃってね。理由がしっかりしすぎているからなんですって」
 わぁ! お母さん、言わなくていいのに!
「あら、そこが糸ちゃんのいいところなのに」
「それでこの子ったら今度は婚活アプリに手を出すって言うものだから私も心配で」
「お母さんっ! ここでわざわざ――」
「婚活アプリ? 謙吾のところがやってるやつか?」
 ん? なんですって?
「と、父さんっ!」
「昨年から新規事業として始めたんだよ。すごい反響でね。今は婚活もアプリでする時代なんだねぇ。なんだったかな……」
「あなた『婚活ステーション』よ。マッチングアプリは人材サービス会社でもあるじゃない? ノウハウがある程度被るところもあるからって、謙吾も今流行りの婚活アプリを始めたのよね」
『婚活ステーション』が謙吾の会社……。
「謙吾……?」 
 大熊が焦っている。そりゃそうだろう。こんなところで親にバラされたんだから。
 私の睨みに耐えきれなくなった謙吾が「す、すまん……黙ってて」と小声で言った。
 これは後でおしおき案件確定ね。
 
 些細な問題はあったけれど、顔合わせという名の食事会は、始終和やかな雰囲気で幕を閉じた。
 そして結婚式は私の仕事の都合上、春休みに執り行うことに決まった。