謙吾がテーブル越しにキレて喚き散らす私の口を大きな手で覆った。誰が見てようが聞いてようが関係ない。フガフガとまだ文句の言い足りない私は謙吾の手を振りほどき、思いっきり突き飛ばした。
 ところがこの大男は全くびくともせず、逆に私がバランスを崩してしまった。
「キャッ……」
「糸!」
 倒れて椅子に尻もちをつくはずだったのに、弾みがつきすぎて、私は椅子ごとプールの中に落ちてしまった。
 すぐさま後を追うようにプールに飛び込んだ謙吾。ホテルスタッフやほかのお客さんが集まってきて大変な騒ぎになってしまった。

 ◇ ◇ ◇
 
「大丈夫か?」
「ん……」
「髪が濡れているだろう。風邪をひいたら大変だからちゃんと乾かして……」
「謙吾こそ早くお風呂に」
「俺もシャワーを浴びた」
「え?」
 プールから上がった後、全身びしょ濡れの私たちは、ホテルのスタッフ用裏導線から客室へと案内された。先にシャワーを使わせてもらって、今は部屋に備え付けのバスローブをまとっている。
 たしかに謙吾もバスローブ姿だけど、どういうこと?