「不器用すぎるだろう。ちょっと落ち着け」
「だが」
「聞け。まず俺に代表は務まらない。今の俺は秘書としてのキャリアを築いているところだ。分家の俺にとって、まだ謙吾のおちゃらけ秘書という仮面を脱ぐ時期ではない」
 そうだった。充はこう見えて優秀だ。だが分家の彼が若くして頭角を現せば消される可能性がある。今は慎重になるべき時なのに――。
「……そうだったな……悪かった」
「あと、恋愛に免疫がないと、ここまで吹っ飛ぶのかと驚いている」
「な、なんだよ……」
「あのな、その頭はお飾りか? 一応国立大出てるんだよな? そもそも論なんだよ」
「そもそも論?」
「糸ちゃんがなんでお前の前で……いや、俺が言ったらダメだな」
「なんだ? 言えよ」
「言わない。自分で気づけ。ちょっとは考えろよ」
 そもそも論……? 糸が俺の前で……?
 全くわからないのだが。
「……はぁ。じゃあもう1つだけヒントな。『本心を考えろ』」
「本心?」
「そう。糸ちゃんの本心だ」
 糸の本心……。年齢的にもそろそろ結婚したいってことじゃないのか?
 考え込む俺を呆れた顔で見る充。そんな顔をするくらいならちゃんと説明しろよな。
「とにかく。謙吾の問題は婚活アプリ以前の問題だ。やっと口聞いてもらえるようになったんだろう? もう間違えるなよ」