アンカーでバトンが回ってきたときは4人中4位と最下位だったが、一人抜かし、二人抜かし、最後の一人を抜かしてトップに躍り出た。そしてそのままゴール。聖堂館のグラウンドは最高潮に盛り上がった。
 走り終わった俺のもとにやってきたのは糸だった。1位の選手にリボンを渡す役割を担っていたらしい。
 肩にリボンをつけてもらうためかがんだ俺に「謙吾、がんばったね!」と言って、糸が俺の頭を撫でたのだ。
 初めての感覚だった。親にさえ頭を撫でられた覚えがなかったのだ。こんな大男の頭を撫でる友達ももちろんいない。
 小さい体で背伸びして、満面の笑みで俺の頭を撫でる糸は可愛かった。リボンをつけてもらう間、ずっとドキドキしていたのを覚えている。
 それから糸は俺にとって特別な存在になった。つまり、これが俺の初恋だったのだ。