【婚活ステーション】だと? それは……俺の会社だ。
 昨年立ち上げた新規事業とはまさにこのことで、口コミの良さからたった一年で業界トップに躍り出た。
 目の前でサクサクとプロフィールを書き上げていく糸。
「あ、おい! まさか本名で登録していないだろうな?」
「え? ダメなの?」
「当たり前だ。そういうのは仮名で登録するんだ。メッセージで何度もやり取りして、実際に会う段階になっても本名は言わない。本気で結婚を前提に付き合うようになって初めて明かすもんだ」
「……すいぶんと詳しいのね」
 ハッ。マズい。
「み、充が詳しいんだ」
 充とは従弟で、俺の秘書でもある六車充(むぐるまみつる)だ。
「ああ、充君かー。でも彼なら婚活アプリなんてものに手を出さなくても、普通に女の子にモテるだろうに」
 その通りだ。充は俺と違って見た目の良さからとにかくモテる。俺から見ればあんなチャラ男のどこがいいのかと思うが。
 しかし、充は【婚活ステーション】の立ち上げから深くかかわっている幹部だ。もちろん婚活アプリのことを知り尽くしている。あいつが詳しいというのは間違いではない。
「じゃあ綿子でいいや」
 わたこ……糸だから繊維関係か。単純すぎるだろ。まあ糸らしい。
 それにしても、糸が見合い? 婚活アプリ?
 突然なんなんだよ。それも一度は関係した俺の前で……。