「美桜」


「あ、一葉(いつは)くん!」


 幼なじみで隣に住んでいる一葉くんが、キッチンに顔を出した。


「いらっしゃい!部活終わったの?」


「ああ」


 一葉くんと仲直りしてから、よくうちに顔を出してくれるようになった。


 お姉ちゃんは部活やバイトで帰りが遅いから、私を心配して様子を見に来てくれているみたい。


 一葉くんが私に向ける表情はとても柔らかくなったけれど、反対にいおり先輩に向ける表情はひどく冷たいものだった。


「またいるのか、藤ヶ谷 庵(ふじがや いおり)


「やあ、相変わらずの態度で先輩はちょっと悲しいな…」


 いおり先輩がわざとらしく目元をこする。


「泣き真似はやめろ、気持ち悪い」


「うわー、美桜聞いた?気持ち悪いって!こんなにかっこいい俺を気持ち悪いだなんて言ってきたのは一葉くんがはじめてなんだけど!」


「言ってろ」


「あはは…」