「あ、」


 目の前を制服を着た男女が通りすぎる。


 仲良さそうに話しながら、手をつないで歩いて行った。


「美桜?どうかした?」


「あ、いえ…」


 ふと今日の体育の授業で彩ちゃんと話したことを思い出した。


『私、大木先輩と付き合いたい、彼女になりたいんだ』

『美桜ちゃんもこんな気持ちになったことない?』

『私の恋する気持ち、わかるかな…?』


「いおり先輩…」


「ん?」


「恋ってなんなんでしょうか…?」


 きょとんと目を丸くしたいおり先輩は、わざとらしくあごに手を置いた。


「うーん、そうだなぁ。その人のことが好きで好きでたまらなくて、ずっと一緒にいたいと思ったり、誰か他の人と話していたらもやもやしちゃうとか、その人のことで頭がいっぱいになってしまう、みたいなそういう感じかな?」


「その人のことで頭がいっぱい…」


「あとは触りたいとか抱きしめたいとかも思うかもね」


「さわっ!?…な、なるほど…」


 恋ってそういうものなのかぁ…。


 ってことはやっぱり、私はまだ恋をしたことがないかも。


 みんなのことは大好きだけど、特定のだれかのことで頭がいっぱいってことはないもんなぁ。


 ご飯のことで頭がいっぱいってことはあるけれども。いおり先輩今日なに食べたいかな、とか。


 いおり先輩は興味深そうに私の顔をのぞきこんだ。