「俺は藤ヶ谷 庵(ふじがや いおり)。助けてくれてありがとう。じゃあそろそろ帰るから」


「え?」


 いおり先輩はふらふらと立ち上がると、壁に手をつきながら玄関へと歩いていく。


「ちょ、ちょっといおり先輩!」


 今にもまた倒れそうないおり先輩の肩を支える。


「そんなふらふらで動くなんて無理ですよ!」


「…じゃあ、ここに住んでもいい?」


「な!?なんでそうなるんですかっ!?」


「じゃあ帰るね…」


「いやいやちょっと待ってくださいっ」


 私はいおり先輩の肩を抱きながら回れ右をして、そのまま先輩をソファに座らせた。


「俺とそんなに一緒にいたいの?」


「違いますっ!」


「そんなに否定しなくても…」


「いおり先輩、倒れてたんですよ?それにまだ顔色も真っ青!そんな人がどこに行こうっていうんですか!」


 何故か自分の身をかえりみようとしないいおり先輩に、私は少し怒った口調でたしなめる。


 けれど。


 いおり先輩は私の髪をさらっとなでた。