「いえ、違うんです。おいしくて、なつかしくて…」


 いおり先輩の作ってくれたかきたまうどんは、私のお母さんの味がした。


 私が作っても、やっぱりどうしてもお母さんの味にはならなかった。


 それなのにいおり先輩の作ったかきたまうどんからは、お母さんの優しい味がしたんだ。


「いおり先輩、とってもおいしいです!どうしたらこんなにおいしくできるんですか?」


 私の質問に、いおり先輩は呆れたように笑った。


「簡単なことだよ」


「え…?」


「美桜が早くよくなって元気になりますように、って、そう想いをこめただけ」


「え、それだけですか?」


「そうだよ?美桜、気づいてないの?」


「?」


「美桜がいつもやってることだよ」


「あ…」


 そうだった。


 いおり先輩のときも、祐一くんと愛奈ちゃんのときも、彩ちゃんも、一葉くんも。


 私はみんなにご飯を好きになってほしい。


 ご飯の時間は楽しいものであってほしい。


 そう願って作ったんだ。


 いおり先輩も、私を想って作ってくれた。


 ただそれだけ。


 その優しい気持ちが、こんなに温かくておいしいご飯になるんだ。


「いおり先輩、すごく、…すごくおいしいです!」


「それはよかった」


 いおり先輩は満足そうに笑った。