「美桜、どうかした?」


「あ!いえ!なんでも!」


「また俺に見惚れてたのかな?」


「あ、いや、別に、そんなことは…」


 ちょうどいおり先輩のことを考えていたので、変な返答をしてしまった。


 いおり先輩が驚いたように私を見る。


「どうしたの美桜?いつもなら、いえ!先輩の顔なんてまったく見てないです!、ってキリっと冷たく容赦なく切り捨てていたのに」


「え?それ私ですか?私、そんなふうでした?」


「まぁ大体こんな感じ」


「そうですか…」


 冷たかったかな?反省、反省…。


 私がいおり先輩とのやりとりを思い返していると、おもむろに先輩が私に顔を寄せた。


「え…?」


 と思っている間に、いおり先輩のおでこが私のおでこに優しく触れた。


「うん、熱はないみたいだ。今日の美桜、なんだか変だから、熱でもあるのかと思って」


 いおり先輩はおでこを離すと、そのまま至近距離で私の顔色をうかがう。


 それだけのことなのに、なぜだか身体中が熱くなって、頭がくらくらした。


 変って、いおり先輩にだけは言われたくないのに…。


 そう言い返したいのに、のどから言葉が出てきてくれない。


「美桜、顔真っ赤になってきたけど、大丈夫?本当に熱?」


 いおり先輩の声色に少し心配の色が混じって、私は慌てて否定した。


「ち、違いますっ!これは、その、い、いおり先輩のせいで……」


「俺のせい…?」


 いおり先輩はきょとんと目を丸くしてから、にっと口角を上げた。