「一葉くん!」


 一葉くんは教室に一人でいた。


「美桜?なんでこんなところに」


 一葉くんは不思議そうに首をかしげる。


「なんでって…一葉くんが心配で…」


「心配?」


「と、とにかくこれ食べて!!おにぎり!!」


「あー…ありがとう、もらっておく」


 一葉くんはおにぎりを受け取ってくれたけれど、なぜだか少し困ったように眉を下げた。


「体育館で一緒に食べない?お弁当、たくさん作ってきたんだ!お姉ちゃんも来てくれてて!」


「…そうか」


「早くしないといおり先輩に全部食べられちゃうよ」


「藤ヶ谷 庵。また美桜のところにいるのか」


 一葉くんは呆れたようにため息をつく。


「ね?一緒に食べよう!みんなで食べると楽しいよ!」


「知ってる。けど、俺はここでいい」


「え…?」


「おにぎりありがとう」


 一葉くんは話は終わりだ、とでも言うかのように黙々とおにぎりを食べ始めた。


「い、いつでも私たちのところに来てくれていいんだからね!」


 しつこく最後まで誘ってみたけれど、一葉くんは手をひらひら振るだけで、結局一緒にお弁当を食べることはなかった。