私を城に連れて帰った後、ギュスターヴは宣言通り地下へ行ったようです。
 そして、フラグ回避のためかどうかは知りませんが、放任主義の彼には珍しく、私の側に見張りを置いていきました。

「──まったく、魔王様には困ったものだわ」

 腰に手を当て踏ん反りかえってそう告げたのは、メイドの格好をした女の魔物。
 赤い髪と緑色の瞳の美人で、両のこめかみからは山羊のような角が生えています。
 彼女の名前は、ドリー。ギュスターヴが私につけた専属のメイドです。
 私と同じくらいの年格好に見えますが、おそらくはうんと年上でしょう。
 魔王の信頼が厚いということは、きっとメイドとしては優秀なのだと思いますが……

「どうして、この私が元人間の面倒など見なければいけないのかしら。まあ、アヴィスがどうしてもと言うなら、ずっと側にいてあげてもいいけど?」

 この通りのツンデレです。ツンと顎を反らしておきながら、チラチラ見てきて鬱陶しいことこの上ないです。
 とはいえ、さすがにこの半月でドリーの扱いにも慣れた私は、彼女に無感情な眼差しを向けて言いました。
 
「別に、あなたに側にいていただかなくて結構です。私のことなど構わずに、どこへなりとも消え失せればよろしいでしょう」
「き、消え失せるとか! そんな言い方しなくたっていいでしょう!」

 とたん、わぁんと泣き声を上げてしがみついてきた山羊娘を、非力な私は受け止めきれずに床に押し倒されます。
 ゴチンッと後頭部を打ちつけて、とっさにイタッとか言ってしまいましたが、痛覚がないので実際は全然痛くはありませんでした。

「もうっ! お前って子は! 本当に可愛くないんだからっ!」
「そうですか、可愛くないですか。ギュスターヴは可愛い可愛いと言いますが」
「そりゃ、可愛いわよ! 私と魔王様の子供ですものっ!」
「どっちなんですか。あと、あなたと魔王の子というは語弊があるのでやめてください」