「ヒヨコがいたら、あんなクモ達なんてすぐに追い払ってくれたんです。ヒヨコはまだ帰らないのですか? 私の可愛いあの子を、いったいどこへやってしまったのです?」
「なんだ、あの死人が不在なせいでむしゃくしゃしているのか。あれは、お前のために強くなりに行っているのだぞ?」
「あれ以上強くならなくてもいいです。ヒヨコの手に負えないものは、ギュスターヴがやっつければいいだけです。できるでしょう?」
「まあ、できるがな。だが、お前に狂信的に尽くそうとするあいつのことは、私も嫌いではないのだ」

 吸血鬼ジゼルに歯が立たなかったことから、ヒヨコは生粋の魔物と渡り合える力を付けるために、ギュスターヴが紹介した相手のもとへ修行にいってしまいました。
 ジゼルとの一件のすぐ後のことですから、ヒヨコとはもう半月も会っていません。

「私のヒヨコのくせに、私の反対を押し切って行ってしまうだなんて、許し難いことです。万死に値します」
「まあ、あいつはもう死んでいるが」
「帰ってきたら、たっぷり文句を言って差し上げねばなりません。ヒヨコがいない間、私がどんなにクモ達に煩わされたのか、じっくり聞かせてやらねばなりません」
「そうだな。ところで、結局クモンベルトはどうなった?」

 クモンベルトは私に殴られているうちにだんだん気持ちよくなってしまったことから新たな性癖に目覚め、クモ美との思い出を胸に新たなクモ生を歩き出していらっしゃいます。ちなみに、彼も相互フォロワーです。

「ギュスターヴ、ヒヨコを返してください」
「じきに戻る。あれはもう、お前なしでは存在できない化け物だからな」
「化け物? 化け物とはなんですか。聞き捨てなりません。あんなに愛らしいのに!」
「魔物でも、もはや人間でもない。お前に対する思慕だけで屍となってもなお成長するあれを、化け物と言わず何と言おう」
 
 ふかふかのマントの襟に頬を埋めて文句を垂れる私の頭を、ギュスターヴの大きな手が優しく撫でます。
 巨大でおぞましい魔物を触れもせずに屠るその手は、私に対しては優しいばかりでした。
 不覚にも心地よくて、うっとりと目を閉じておりますと、何やらじっとギュスターヴに見つめられている気配がします。
 やがて、彼が囁くように問いました。