「あなたは……日光を浴びても平気なんですか?」
「魔界の日光は所詮紛い物ですもの。あなた達をおもてなしした成れの果て達には作用しても、生粋の吸血鬼であるわたくしには屁でもありませんわ」
「屁」
「あら……ごめんあそばせ」

 廊下に溢れていた知性の欠片もなさそうな連中は、この生粋の吸血鬼ジゼルの餌食となった人間や魔物の成れの果てなのだそうです。
 そもそも、彼らを使って私を害そうという意図はなく、この当主の部屋まで案内させるだけのつもりだったと言います。
 血をよこせとうるさかったのは、仕様でしょう。
 そうとは知らない私とヒヨコが派手に抗ったがために、成れの果てを総動員しての大乱闘に発展したわけです。「あのような有象無象どもに、可愛いあなたを味見させてやる謂れはありませんわ。あなたの血の一滴までも、全てわたくしのものです」
「……私の血は、私だけのものですよ」
「はあ、うふふ、可愛い……可愛くて、美味しそう……」
「全然話聞かないんですね……絶対、私おいしくないですよ。精気がくどいんですから、血だってきっとくどいですよ」

 私をやたらと可愛い可愛い言うことからも分かるように、この女吸血鬼もまた、私の身体に血肉を加えた魔物の一匹だったのです。
 ほぼ裸の夢魔はしまっちゃいたいくらい可愛いと言っていましたが、まさか食べちゃいたいくらい可愛い派がいるとは想定外でした。
 強い力で引き寄せられたかと思ったら、膝小僧に滲んだ血を舐められます。
 痛覚はないので痛くはありませんが、傷口を舌で擦られるのは気持ちいいものではありません。
 ですので、美味! と叫んだその美しい顔に膝蹴りを喰らわせようとしましたが、あっさり避けられてしまいました。
 しかも、今度は首筋をベロリと舐められて、さしもの私も竦み上がります。

「あ、あなたに血を吸われたら……私も廊下の連中のようになってしまうのですか……?」
「うふふ、安心してちょうだい。あんな中途半端に食べたりしませんわ。余すことなく、全部食べてさしあげますわね」

 それを聞いたヒヨコが、がむしゃらに暴れ出しました。
 ジゼルは尖ったヒールでその頭を踏み込みながら、私の両肩を掴みます。
 そうして、ついに首筋に牙を立てられそうになった──その瞬間でした。