とたん、周囲を取り巻く者達からはどよめきが上がります。
 しかし、銀色頭は片眉を上げたものの、手を振り払ったことに気を悪くする様子も、それどころか私の質問に答えることもありませんでした。
 彼はただ、私に負けじと訝しい顔してこう問い返してきたのです。

「ギュスターヴ? 誰のことだそれは」

 これに答えたのは、私の足にもこもこスリッパを履かせてくれた金色頭。
 こちらもなんだか馴れ馴れしく私の頭を撫でながら、呆れた顔をして言います。

「しっかりなさってください。あなたの名前でしょう? 久しく呼ばれていないからといって、ご自分の名前を忘れたりしますか──魔王様」
「……まおう?」

 私は弾かれたように金色頭を見上げました。
 けれども、すぐに正面に視線を戻して首を傾げます。

「ギュスターヴは……魔王、なのですか?」
「いかにも」

 銀色頭は偉そうに頷くと、懲りもせず私の顎の下を子猫をあやすみたいにくすぐるのでした。