「〝吸血鬼の効果的な倒し方をご存知ありませんか。マジレス希望〟と。……これでは、冗談だと思われて相手にされないかしら?」

 幸いなことに、この心配は杞憂に終わりました。
 だいたい、こんな昼日中から会員制交流場に入り浸っているのは暇人ばかりなのです。
 私の呟きが冗談であろうと嘘松であろうと、暇潰しになりそうだと思えば乗ってきてくれます。
 それを証拠に、フォロー外の人を含めて、各方面からさまざまな吸血鬼対処法が寄せられました。
 しかしながら……
 
「ニンニク、銀、流水……あいにく、どれも手元にありませんね」

 せっかく教えていただいたどれもこれもが、今すぐこの場で用意できるものではありません。
 そうこうしているうちに、私達はいよいよ廊下の突き当たりに追い詰められてしまいました。
 背後には、ぴったりとカーテンが閉まった窓。
 これを突き破って、私を抱えたまま飛び降りようかどうしようか、とヒヨコが悩んでいるのがありありと分かりました。
 二階ですから、着地に失敗してもそう大したことにならないでしょう。
 私にはどうせ痛覚もないですし、ヒヨコなんてそもそも死人ですもの。
 ああ、それでも……

「こわいのは、こわいんですよね……」

 一度死んだ身なれど、恐怖は生前同様に覚えるのです。
 迫る吸血鬼の大群も、二階の窓から飛び降りるのも、本当はどちらも恐ろしい。
 ええ、分かっています。
 この状況を招いたのは私の浅はかさだということは、いやというほど自覚しているのです。
 ここを訪れることをヒヨコは反対したのに、彼の優しさに付け込んで押し通してしまった私が馬鹿だったのです。
 どいつもこいつも愚か者だと思っていましたが、むしろ私が一番愚か者でした。
 ヒヨコを巻き込んだことも人並みに申し訳なく思います。
 それでも彼を頼らざるを得ない自分が、とても恥ずかしい。
 でも、でもでも、それでも──


「生前の私なら、こんなことできなかった。少しでも、エミールの足を引っ張るかもしれないと思うと、私は何もできなかったの──」


 エミールという抑止力がなくなって、今はとても心が軽いのです。
 死んでおいて言うのもなんですが、やっと自分の人生を歩み始めたような気がするのです。
 浅はかでも、馬鹿でも、愚かでも、私はちゃんと私のために存在している。


「私の人生は、私のものだもの」


 ぎゅっ、とヒヨコが私を抱きしめてくれました。
 言葉はなくとも、祝福されているように感じたのはきっと気のせいではないでしょう。
 それが嬉しくて、私も彼を抱きしめ返した──その時でした。