引き続き、ピンチです。

 屋敷に入ってしまった私とヒヨコが遭遇したのは、知性の欠けらもなさそうな吸血鬼の群れでした。
 なぜ、魔界新参者の私が吸血鬼と断言できるかというと……

『ちを……ちを、よこせ……』

 彼らがひたすらそう繰り返しているからです。
 吸血鬼達は私とヒヨコを取り囲んで、ジリジリと間合いを詰めてきます。
 ヒヨコは私を背中に庇いつつ両手に抜き身を剣を構え、私は私で得物を握り締めました。
 もちろん、先日手に入れた骸骨門番の左大腿骨のことですよ。
 まるで誂えたかのように手に馴染んだそれを構え、私がヒヨコの動きに合わせて一歩足をずらした時でした。
 パキリ、と何かを踏んだ音が響いたのは。

「──っ!!」

 たちまち、私達と吸血鬼達との間で保たれていた均衡が崩れ去ります。
 張り詰めていたものが破裂したみたいに、わっと一気に吸血鬼達が襲いかかってきました。
 ヒヨコの双剣は、それを容赦なく斬り倒し始めます。
 五日前、地界から戻ると何故だか復活していた彼の右腕も大活躍です。
 左腕一本でもグリュン王国の騎士達を軒並み戦闘不能にした腕前ですから、突進するしか脳がなさそうな連中が今の彼に敵うはずもありません。
 微力ながら、私も大腿骨でもって立ち向かいます。