「自分の寝顔をわざわざあの子のアカウントに投稿させるとか! 何です、あれ!? リア充自慢です!? ぼっちの私に喧嘩売ってます!?」
「おい、天使。急に私怨が入ってきたぞ」

 嫌な顔をしたギュスターヴは、とたんにべしゃっとカリガを地面に投げ捨てた。
 それから、半身だけ背後を振り返って言う。

「もう、いい。ノエル、こいつの処遇は貴様に一任する」
「はあ、私ですか?」
「なんだ、元同僚を痛めつけるのは気が引けるか?」
「まさか──むしろ、ワックワクしちゃいますね」

 すっかり魔界に染まった元同僚の真っ黒い笑みに、ここまで威勢の良かったカリガも息を呑む。
 ギュスターヴはそれを冷たく一瞥すると、ブーツの底で二度三度地面を叩いた。
 するとどうだろう。
 天使の血を浴びて枯れた草達がみるみるうちに元気になり、あっという間に元の草原へと戻ってしまったのである。
 それを見届けることもなく、ギュスターヴはあっさりとカリガに背を向け、控えていたノエルに命じた。

「なぜアヴィスを殺したのか、なぜあれに執着しているのか──拷問して吐かせろ」
「御意」

 そうして、彼らがすれ違おうとした、その時である。

「……っ」

 突然ギュスターヴが立ち止まったかと思ったら、どこか遠くを見るような目をした。
 その横顔がいつになく険しいことに気づいて、ノエルも眉を顰める。

「魔王様、いかがなさいましたか?」
「……アヴィスを迎えにいってくる」
「アヴィスを? まだ、五時ではありませんよ?」

 その問いに、言葉とは裏腹に凪いだ声で答えた。


「──どこかで、あれの血が流れた」


 えっ、とノエルが聞き返した時にはもう、どこにもギュスターヴの姿はなかった。