言い訳のようなものを始めた天使の言葉を魔王が遮る。
 打って変わって、凄まじい怒りを内包した激しい声だ。
 魔王の怒気に呼応するみたいに、ビリビリと魔界の空気が震えた。
 珍しく苛立ちを隠そうともしないその様子に、彼の側近さえも驚いた顔をしている。
 ギュスターヴはつかつかと天使に近づくと、その胸ぐらを掴み上げて続けた。

「貴様らの都合など知ったことか。どんな理由があろうと、貴様がアヴィスを殺したという事実は変わらん。まあ、それがなければ、そもそもアレは私の子にはなっていなかったのだがな」
「あ、あなたの……子?」
「なぜ、アヴィスを殺した? なぜ、天使の貴様が魔界に入り込んでまであの魂を天界に持ち帰ろうとする? ──言え」
「……っ、それが! 彼女にとって最善だからです!!」

 そんな天使の答えが気に入らなかったのか、ギュスターヴの目に酷薄さが増す。
 彼は胸ぐらを掴んだままの手で、満身創痍の天使を高く吊り上げた。
 その見事な悪役っぷりを静かに見守っていたノエルが、ここで初めて口を開く。

「さっさと吐いた方が身のためですよ、カリガ。魔王様は今、アヴィスにドはまりしていらっしゃいますからね。これ以上ご機嫌を損ねれば……あなた、楽には死ねませんよ?」
「私が私の子を可愛がるのは当然のことだろう」
「そうですね。まったく……付き合いの長い私でさえ、寝起きの魔王様には細心の注意が必要だというのに、あの子ときたら……」
「私の眠りを邪魔して生きていられたのは、アレが初めてだな。いやしかし、我が子に起こされて一日が始まるというのもなかなかにいいものだ。お父さん冥利に尽きる」

 ノエルによって、アヴィスを殺した天使の名がカリガであることが判明した。
 けれども、そのカリガは元同僚が忠告したにもかかわらず、やはり屈する様子はない。
 それどころか、自分の胸ぐらを掴んだギュスターヴの手首を逆に両手で掴み返して叫んだ。