「アヴィスの魂は、天界ではなくこの魔界に来た。神の許ではなく、この私の手の中に、だ」
ギュスターヴは赤い目を天使から頭上へ──地界のそのまた上にある天界、さらにはそれを牛耳る魔王とは対極の存在に向けて続ける。
「解せんのは、待てば天界のものになるはずのアヴィスを、どうして早々に連れていく必要があったのか、だ。わざわざ天使に人殺しをさせてまでな」
「……っ、神は、人を殺めたりなさいません! アヴィスを殺したのは私の独断です! 神の指示ではありませんっ!!」
ここで初めて、天使が声を荒げた。
対して、視線を彼に戻したギュスターヴは無言のまま右手で空を一薙ぎ。
「……っ、ぐ!」
目に見えない刃が天使の左翼を切り裂き、ぶわりと羽根が宙を舞った。
ボタボタ、と天使から溢れた赤が草の上に降り注ぐ。
魔界の植物とは相容れない清浄が、まるで毒を撒いたみたいに瞬く間に草原を枯らした。
それを無感動な目で一瞥してから、魔王はわずかな憂いを浮かべて言う。
「アヴィスがな、泣いたのだ……」
それは、目の前に広がる惨状とは不釣り合いの、ひどく静かな声だった。
天使が狼狽えるほどに、悲しげにも聞こえた。
「な、なに……」
「自分が、天使に……貴様に殺されたのだと知って、どうして、と泣いたのだ」
「し、仕方がなかったのです。あの子をあのまま、地界に置いておくわけには……」
「──黙れ」