私は、毒入りのワインを飲んで死んだはずでした。
 あっけなく体を離れた魂は、お迎えの天使の腕に抱かれて現世に別れを告げたのです。
 それなのに今、私の心臓は何事もなかったかのように胸の奥で脈打っていて……

「どうして……?」

 私はわけが分からないまま、両の掌でペタペタと何度も胸を押さえました。
 トクトクと確かに脈打つ心臓に重ねて問います。

「なぜ、あなたは動いているのですか?」

 前が盛大にはだけるのを見兼ねたのか、正面から伸びてきた手がマントをかけ直してくれました。
 かと思ったら、同じ手が私の顎の下を掬います。
 そのまま強引に顔を上げさせられた先には、やはり鮮血よりもなお鮮やかな赤がありました。

「心臓は動いていて当然だ。お前は今、生きているのだから」
「生きて、いる……? 私が……?」
「ああ、そうだ。その、新しい体でな」
「新しい……からだ……?」

 銀色頭の存外優しい声が噛んで含めるように告げた言葉に、私は訝しい顔をします。
 死んだはずの私が、生きている。
 しかも、新しい体とは、一体全体どういうことなのでしょう。
 私は挑むように赤い目を見返すと、顎の下をくすぐっていた銀色頭の手をぺいっと振り払います。
 そして、頭の中に浮かんだ言葉をそっくりそのまま声に乗せて吐き出しました。
 

「詳しく聞かせていただけますか──ギュスターヴ」