「……ふが」

 魔王でも、息ができないと苦しいようです。
 ふが、って言いました。ふが、って。
 ぎゅっと眉根が寄って、小さく口が開きました。
 そうすると、これほど綺麗な顔でさえどこか間が抜けて見えます。
 それでもなお惰眠を貪ろうとするなんて、往生際の悪いこと。
 その胸の上にうつ伏せに寝そべったまま上体を伸ばし、今度は半開きの口を塞いでやります。
 私の、口で。
 するとどうでしょう。
 あれほど頑なだったギュスターヴの瞼が薄く開き、わずかに覗いた赤がやっと私を捉えました。
 それに満足して唇を離すと、彼は両目をしぱしぱさせてから、緩慢に口を動かします。

「……アヴィス」
「おそようございます。もう、十時を回りましたよ?」
「おはよう。ところで──今、私の精気を吸ったか?」
「はい、いただきました。ごちそうさまでした」

 精気とは、あらゆるものの根源となる力のこと。
 人間も動物も、天使も魔物も──神や魔王でさえ、これを体内に有しています。
 地界で生きる人間や動物は主に有機物を糧とし生命を維持していますが、魔物の中には他者の精気を糧とするものも少なくはありません。
 魔物の血肉で作られた器のせいか、私もそれが可能になってしまったようです。
 精気を摂取する方法は様々かと思いますが、私の場合は無難に口移しです。
 ギュスターヴは仰向けに寝そべったまま、しばしとろんとした目で胸の上の私を眺めていました。
 やがて、私の背中に腕を回して上体を起こします。
 必然的に自身の膝の上に座る形になった私の頭頂部に顎を乗せ、一つため息を吐きました。