鮮烈な赤は、長い銀色のまつ毛の下に隠れてしまっていました。
 すっと通った鼻梁、薄い唇。
 まつ毛と同じ、上質の絹糸を思わせる長く艶やかな銀色の髪に埋もれて、美しいひとは眠っています。
 大きいばかりで飾り気のないベッドに、目が痛くなりそうなほど真っ白いシーツ。
 天蓋から垂れ下がるカーテンも白で統一され、ともすればここが魔界だということを忘れてしまいそうになります。
 この真っ白い世界で眠る美しいひとが、神とは対なす存在──魔王だということも。

「それにしても、よく眠れるものです……」

 一度死んだ私が、この魔界で新しい身体を与えられて目覚めてから、はや一週間。
 その間、魔王ことギュスターヴを観察し続けた私の感想は、〝魔王、めっちゃ寝るやん〟でした。
 このひと、午後十時にはベッドに入り、翌日は午前十時になるまで絶対に起きてきません。つまり、一日の半分寝ています。
 それが悪いとは言いませんが、魔王というからにはもっとこう、退廃的で不健康な毎日を送っていると思っていた私は、正直肩透かしを食らった気分でした。
 それを本人に伝えると、偏見がひどい、と笑われてしまいましたが。

「寝首を掻かれでもしたら、どうするつもりなのかしら」

 仰向けに身体を伸ばしてお行儀良く眠る魔王を眺めつつ、私はそのベッドにのしのしとお邪魔します。
 魔王ともあろう方が、こんなに簡単に侵入を許してしまっていいのでしょうか。
 しかし、私が身体の上に乗り上げても、その胸に両肘をついて顔を眺めていても、一向に起きる気配はありません。
 せっかくなので、携帯端末で寝顔を撮って差し上げます。
 いいですよね?
 とても上手に撮れたので、会員制交流場に投稿してみました。
 えげつない速さで拡散されていますが、かまいませんね?
 めちゃくちゃイイネもいただきました。
 ありがとうございます。
 顔がいい、とは何かの合言葉ですか?
 けれども、やがてお綺麗な顔を眺めるのにも飽きた私は、右手を伸ばして鼻を摘みます。ギュスターヴの、高い鼻を。