「……アヴィス、そのイカれた男は一体何者なの?」
「いかれているのは貴様の方だと思うがな。はるばる魔界から訪ねてきた健気な女子をいじめて、一体何が面白い? 理解に苦しむな」
「……っ、うるさいな! っていうか、魔界? 魔界だって!? アヴィス、君……天界じゃなくて魔界に行ったの!?」
「……行きました。不本意ながら。そして、この方は魔王だそうです」

 は!? と、今度はエミールと兄の声が重なりました。
 無理もありません。私ももう一度、彼らと一緒に三重奏を奏でられていたなら、どれほどよかったことか。
 しかし、死んだ私が天界ではなく魔界に行った事実も、ギュスターヴが魔王である事実も変わりません。
 急にどっと疲れを覚えた私は、幼子をあやすみたいに背中をトントンしてくるギュスターヴに説明を丸投げします。
 
「魂だけだったアヴィスに、私と愉快な仲間達の血肉が新たな身体を与えたのだ。今のアヴィスは我が子と言っても過言ではない。よって、私はコレの〝お父さん〟を名乗ることにしたというわけだ」
「ちょっ、ちょーっと待ったぁ!!」

 ここで、一際声を張り上げたのは兄でした。
 兄は這いつくばった格好のまま、両手で床をドンと叩いて叫びます。
 
「聞き捨てならんぞっ! 魔王だか何だか知らないが、いきなり現れて何を言うかと思えば! アヴィスの父といったら、この私のことだろう!!」
「兄様は兄様でしょう? 父は、亡くなった父だけです」
「この十年、私が親代わりだったんだ! そもそも父上がアヴィスの父をやっていたのは八年! 私の方が二年も多い!! 私の方が断然父と名乗るにふさわしいっ!!」
「はあ……」

 無駄に声の大きい兄の主張に反論するのが面倒くさくなった私は、生返事に交ぜてため息を吐きます。
 代わりに鋭く突っ込んだのはギュスターヴでした。
 彼は冷ややかな目で兄を見下ろし、ぬかせ、と一刀両断。