「……っ!? いたっ……!」

 突然、それを鷲掴みにしたのです。
 痛覚などないというのに、反射的に悲鳴がこぼれました。
 地肌が引き攣れ髪が軋み、私は思わず顔を顰めます。
 にもかかわらず、エミールは冷ややかな目をしたまま、抑揚のない声で矢継ぎ早に尋ねました。

「この髪は何? ねえ、アヴィス。これ、どうして違う色なの? アヴィスの髪は黒でしょう? ずっとずっと、そうだったよね? ねえ、どういうこと?」
「そ、それは……」

 エミールの鬼気迫る形相と、責めるような口振りに、たじたじとなった私は口籠ってしまいます。
 それに、ひどく悲しい気持ちにもなりました。
 兄は、どんな形でもどんな姿でも、私が生きているならそれでいいと言ってくれたのに、エミールはそうではないのでしょうか。
 居た堪れない気持ちになって、私は彼の視線から逃れようと顔を俯かせます。
 思いもかけないことが起きたのは、この直後のこと。
 突然、水をかけられたみたいに頭の天辺が冷たくなったのです。

「……え」

 何が起こったの分からず固まっていると、何かがこめかみや額を伝って垂れてきました。
 やがて顎の先まで到達したそれが、ポタリ、ポタリ、と音を立てて胸元に滴ります。
 繭色のワンピースが青黒く染まったことで、私はようやく、インクを頭からかけられたのだと理解しました。

 誰に?

 ──エミールに。