(ギュスターヴは、もう起きたのでしょうか……?)

 ふいに脳裏に浮かんできたのは、魂だけになった私にこの新しい身体を与えた魔王の姿でした。
 今の私と同じ、銀色の髪と赤い瞳をした、やたらと尊大で馴れ馴れしく、そしてとても美しいひと。
 その鋭利な眼差しが、私に向けられたとたんに柔らかく綻んだのを思い出して、不覚にも恋しさのようなものを覚えました。
 許嫁の腕の中で別の男性を思い出すなんて、なんとも不誠実なことです。
 それを見抜かれたというわけではないでしょうが、私が気もそぞろなのを勘付かれたのかもしれません。

「……アヴィス?」

 エミールに訝しげに名を呼ばれます。
 私は慌てて、取り繕うような笑みを貼り付けた顔を上げ──

「……っ」

 とたん、凍りつきました。
 晴れた日の空みたいな色の瞳が、見たこともないくらいに冷たく自分を見据えていたからです。
 とっさに後退ろうとしたものの、背中に回っていた腕に阻まれてしまいました。
 そんな私をなおも温度のない目でじっと見下ろしていたエミールでしたが、やがてこちらの髪を右手で一撫でしたかと思ったら……