「だって、アヴィスは戻ってきてくれたのでしょう!? もう、僕を置いてどこにもいかないよね!?」
「……っ」

 私はこの時、愕然としました。
 懇願するようなエミールの言葉に、どうしても頷くことができなかったのです。
 私がはるばる魔界からこの地界のグリュン城に戻ってきたのは、エミールが冤罪で幽閉されていると思ったから。
 幸いそれは杞憂に終わり、こうして無事再会できたというのに──私は生前のように、彼と一緒に生きていく未来を思い描けなくなっていました。
 それはきっと、私に死んでしまった自覚があるから。
 そして、この身体が魔王と魔物の血肉でできた紛い物であると知っているからでしょう。
 私はもう、エミールの妻にはなれません。当然、王太子妃にも、王妃にも。
 物心ついた頃からずっと思い描いていた未来が白紙に戻るのはあまりにも寂しいですが、しかし私にはどうしようもありません。

「アヴィス以外のことなんて、もうどうでもいい……アヴィスが側にいてくれるなら、僕はもう他に何もいらない……」

 エミールはなおも私を抱き締めたまま、涙に濡れた声でそう繰り返します。
 こんなに自分を必要としてくれる人の手を離すのは、あまりにも心苦しい。
 華奢だと思っていたエミールですが、こうして密着していると、彼も年頃の男性なのだと否が応でも思い知らされます。
 ヒヨコや兄に比べれば、やはり線は細いとは思いますが。
 それに……