「アヴィス、蘇ったのか!? どうやって!?」
「ええっと、話せば長くなりますし……この通り、髪も瞳も色違いになってしまいましたけれど……」
「いい! 色なんてどうでもいいんだ! どんな形でも! どんな姿でも! お前が生きていてくれるのなら、私は……」
「兄様……」

 兄は私を抱き締めて、それはもうおいおいと声を上げて泣き出しました。
 騎士団長の沽券も何もあったものではありませんが、彼の部下達は全員ヒヨコが伸したので見られることはないでしょう。
 そんな兄の目の下には、濃い隈ができていました。
 自分が死んだせいなのかと思うと、私はひどく申し訳ない心地になります。
 しかしながら、私のそもそもの目的は兄との再会ではなく、彼の背後の国王執務室。
 兄にクーデターの象徴として担ぎ上げられたであろう、エミールです。

「兄様といえど、エミールに無理強いをするのは許しません」
「な、何のことだ?」

 私が腕の中から睨みあげると、兄はとたんに訝しい顔をしました。
 その頭を、国王陛下にしたみたいにポクポクと叩いてやります。
 門番の大腿骨はここでも大活躍です。
 当然のことながら兄は、何だそれは! と目を剥きました。

「ご覧の通り、大腿骨です。まるで誂えたみたいに私の手にぴったり」
「おおお、お前は! またそんなわけの分からんものを拾ってきて! 昔からそうだ! 確か、父上達が亡くなる前日だって……」

 両親が亡くなる前日に拾ったのはただの可愛い猫ちゃんであって、わけの分からんものなどではありません。
 そういえば……あの猫は、その後どうなったのでしたかしら?
 ともあれ、兄の長いお説教に付き合うのは真っ平ご免です。
 私がちらりと目配せすると、心得たというように頷いたヒヨコが剣を振りかざしました。
 反射的に剣を抜いた兄の腕から抜け出し、私は扉の取手を掴んで振り返ります。

「二人とも、怪我なんてしないでちょうだいね」
「お、おいっ!? アヴィス!?」

 私が国王執務室の扉を押し開くのと、ヒヨコが兄に向かって剣を振り下ろすのは同時でした。
 だから、私には聞こえなかったのです。
 ヒヨコの剣を受け止めた兄が、信じられないような顔をしてこう呟いたのが。

「この剣……君は、まさか……」