第二王妃の後ろ盾となり、グリュン王国で大きな権力を保持していた公爵家は、代々優れた文官を輩出してきました。
 現在宰相の地位にあるその当主は知識人を気取り、騎士団は剣を振り回すしか脳のない野蛮な輩の集まりだと見下しています。
 剣の腕が立つジョーヌ王子が騎士団入りを望んでも実現しなかったのはそのせいです。
 諸外国との関係が安定し、国内の治安も保たれている現在、騎士団が活躍する場が少ないのは確かであり、それは国家を支えているのは自分たちばかりという公爵を筆頭とした文官の驕りを助長することになりました。
 そんな風潮からか、いつしか騎士団が王宮の建物内に配備されることが少なくなり、文官達は影でこう呼んでますます彼らを下に見るようになります。

 外飼いの番犬、と。

「犬が本気で牙を剥いたら人間などとても敵わないと、知らなかったのかしら」

 王宮の中は、私の生前とは一変していました。
 大勢の騎士達が、大手を振って歩いていたのです。
 対して、それまで幅を利かせていた文官達はすっかり萎縮してしまっています。
 その光景はさながら、肉食アリに巣を占拠された草食アリのようでした。
 肉食アリこと騎士達は、堂々と王宮の玄関から入ってきた私とヒヨコに目を丸くしています。
 騎士団長の妹である私の顔も、もちろんそれが死んだことも知っているのですから当然でしょう。
 加えて、ヒヨコの人ならぬ姿に警戒し、彼らは戸惑いつつも剣の柄に手をかけました。

「兄の部下なので、できれば殺さないでいただけますか?」

 そんな私の無茶振りにもかかわらず、ヒヨコの強さは圧倒的でした。
 片腕でこれなのですから、両手に剣を持ったらどれほどになるのか、私には想像もつきません。
 立ち塞がる者全てを床に転がして、彼はあっと言う間に四階にある国王執務室の前まで私を連れていってくれました。
 そうして、その扉の前にいたのは騎士達の頂点──

「──アヴィス!?」
「兄様、ごきげんよう」

 黒い髪と緑の瞳──生前の私と同じ色を持つ兄、グラウ・ローゼオ侯爵でした。
 しかし、死んで墓の下の棺に納めたはずの妹が戻ってきたのです。
 普通に考えれば、気味が悪いのでしょうが……