白目を剥いた国王陛下と、両目をかっぴらいた第二王妃の首が二つ、真っ白い雪化粧を施された庭園の真ん中に並んでいます。
 粉雪はいつの間にか大きな綿雪に変わっていました。
 国王陛下を殴りつけて黙らせたヒヨコは、そのまま二つの生首の前にしゃがみこんで肩を震わせています。
 
「……あなた、泣いているの?」

 そっと労るように肩を撫でると、彼は一本しかない腕でしがみついてきました。
 私よりもずっと固くて大きくて、そして冷たい身体。
 もう生きてはいない、身体。
 どんなに耳を澄ましても、彼の胸の奥からは鼓動が聞こえてきません。

「人の命は、儚いものですね……」

 私は死に、彼もまた死にました。
 ジョーヌ王子も、第二王妃も死んでしまいました。
 ひどく切ない心地になった私は、自分の作り物の身体の体温を分け与えるように、ヒヨコをぎゅっと抱き締めます。
 雪がますます降ってきました。
 私も、ヒヨコも、国王夫妻の生首をも地面の白に塗り込めてしまおうとするみたいに。
 やがて、私達の上に薄らと雪が積もった頃、ヒヨコはようやく私を解放しました。
 そうして私に抜き身の剣を持たせたかと思ったら、目の前に跪いたのです。
 それはまるで、忠誠を誓う騎士のようでした。

「私はもう、王太子妃にも王妃にもなれないでしょう。この身体はもはや人間ですらありません」

 こくり、と跪いたままヒヨコが頷きます。

「私は、騎士に祝福を与えるにふさわしくありません」

 彼は、今度は首を横に振りました。
 その拍子にフードからちらりと覗いた髪は、赤。
 私はしばしの逡巡の後、ヒヨコのフードの天辺に小さく口付けを落としました。
 ただ、親愛を示すためだけに。
 そうして、今一度白亜の城を見つめて独り言のように呟きます。

「国王陛下には申し訳ないですけれど……私、やはりエミールに会いにいきます。きっと、兄様に担ぎ上げられて困っているでしょうから」

 立ち上がったヒヨコが剣を受け取って鞘に戻しました。
 そんな彼を見上げて、私は右手を差し出します。

「一緒に、来てくれますか?」

 ヒヨコはこくりと力強く頷いて私の手を握りました。